世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「矢野監督、退任宣言の影響は!?」

 阪神・矢野監督が今季限りで辞めることを発表した。キャンプイン前日のミーティングでの発言に選手は戸惑ったと思う。最初から「1年だけ」と決めての契約更新だったと明かしたが、「なんでやろ。しかもなんでこのタイミング?」という疑問は残る。本人は吹っ切れたかもしれないけど、選手にとってはやりにくいシーズンになる。

 一方で、コロナの終息具合にもよるが、グラウンドでは面白い動きが出てくるはず。普段はあまり顔を出さないようなOBも、就活のため試合前練習から熱心に足を運ぶようになる。次期監督候補と親しくなりたいとか、球団フロントにアピール攻勢をかける下心が見え見えになると思う。逆に、今いるコーチは新しい職場探しに走らなアカン。ちょっとイヤミになるけど、僕には人間観察の楽しみができた。

 でも、選手は周囲が気になりながらも言い訳はできない。プロ野球選手は自分の成績が全て。優勝しようが最下位だろうが、結果を残した者が給料を多くもらえる世界。「お世話になった矢野監督のために」と口では言ったとしても、結局は自分のため、家族のためにプレーしないといけない。

 翌日の2月1日の沖縄・宜野座キャンプ初日は、スカイAのキャンプ中継の解説で、久しぶりにじっくり球場で見させてもらった。ちょっと心配やったのは、佐藤輝。まだ初日の段階でどうこう言えないが、1年目のキャンプのように気持ちよく振れていなかった。昨年は球団ルーキー記録の24本塁打を放ったけれど、59打席連続ノーヒットの大スランプも味わった。何か変えないといけないと思っているんやろね。

 初日のフリー打撃では、フォームのことを考えながら打っているからか、レフト方向への打球が多かったし、サク越えも少なかった。昨年の開幕当初は「来た球を打つ」と余計なことを考えずに打てていた。いろいろ理論を教えてもらっているのだろうけど、あんまり頭でっかちにならないほうがいい。もともと打てる選手なんやから、振り込んでいく中で自然といい形は身についてくる。

 だから、佐藤輝には「あんまり考えて打ったらアカンで」と声をかけた。コロナ禍で規制が厳しいから、選手と雑談する機会はないが、球場の通路でたまたますれ違った。僕の言葉にうなずいていたけど、どこまで分かってくれたかな。普通にやれば30本塁打は間違いない。三振も凡打も一緒なんやから、一番の武器である思い切りのいいスイングを見失わないでほしい。

 佐藤輝とは逆に、期待が持てたのは4年目のマルテ。フリー打撃に備えたティー打撃の段階から、仕上がりのよさが感じられた。昨年まではスイングのフィニッシュで右手を離すことも多かったけど、今年は両手で振り切れていた。体も絞れている感じがしたし、自主トレをしっかりしてきたのが伝わる。並んで打っていたロハスと比べると、振りの鋭さが際立った。昨年は後半戦に失速して、打率2割5分8厘の22本塁打。今年も同じような成績なら首を切られるから、気合が入っている。

 辞めると決まっている矢野監督にとっては、チームが空中分解しないために例年以上にスタートダッシュが大事。守護神のスアレスが抜けた分を、どこまで打力で補えるか。マルテが救世主になる可能性はある。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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