孤独死の現場やゴミ屋敷、ホームレス密集地帯など危ない現場で取材活動を続けてきたライター兼イラストレーターの村田らむ氏。「自死の名所」と言われた富士の樹海を取材中に、身の毛がよだつ怖ろしい体験をしたという。
雑誌の取材で、編集さんと2人で山梨県の青木ヶ原樹海へ向かった。樹海の登山道をたどって進んでいたが、途中で道が二股に分かれていた。枝分かれした先は獣道のような荒れた道だった。時間に余裕があったので、寄り道をすることにした。
しばらく歩いていくと、遠方になにか青い人工物があるのを見つけた。ブルーシートで作ったテントのようだ。樹海の中では、緑、茶、黒、以外の色があると、とても目立つ。
「わ!! 誰かいるのかしら? ひょっとして誰か亡くなって……」
と編集さんは青ざめながら言う。
僕もドキドキしながら望遠鏡で覗いていると、急に青いテントがガサガサガサ!! と動き出したので、大いにたまげた。
人がいることはわかったが、距離が遠すぎてどんな人がいるのかは分からない。引き返そうかとも思ったが、もし自死しようとしている人がいるなら止めたい。でも近づくのは恐い。
ジレンマを感じていると、編集さんが、
「ちょっと(携帯電話の)電波が通じるところまで行って、警察に電話してきます」
と行って、とっとと走り去ってしまった。僕は、ものすごく不安な気持ちでその場に一人取り残された。
1時間以上経った後、2人組の警察官がやってきた。警察官は僕らが超えられなかったラインをあっさりと突破して、どんどんその青いテントに近づいていく。
そこには2人の老婆がいた。警察官が声をかけると、2人は大声で泣き始めた。
「うわあああん!! もう死ぬしかないんです!! インターネットが悪口を言ってくるので死ぬしかないんです」
話を聞くと、2人は姉妹であり、死ぬために樹海に来たのだという。
警察官がテントを解体すると、遺影と位牌が出てきた。彼女たちの母親の遺影、位牌だという。ゾクゾクと背中に寒気を感じた。
彼女たちはほとんど飲まず食わずで3日間ひたすら位牌を拝んでいたらしい。特にこれといった自死の準備をしていたわけではなく、飢えや乾きで衰弱して死ぬまでここにいようと思っていたそうだ。それは、とても苦しい死に方だ。
警察官はうなだれる姉妹を警察車両に乗せると、
「おばあちゃんたち、インターネットがなんなのかわかってんかな? なんか、施設に入れても、また繰り返しそうだなあ」
とヤレヤレといった表情で話した後、立ち去っていった。
それからずいぶん時間が経ったが、彼女たちの泣き声は耳について離れない。
(写真・文/村田らむ)