高名画家に学ぶ「健康長寿」の必須5カ条(3)65歳で新たな道へ…

 さらに、彼らは作品を描くためには、古今東西どこへでも出かけていった。それも心身を鍛え、脳を活性化させる要因になっている可能性が高い。

「北斎は86歳の時、医師にあてた手紙で日本橋と両国(片道約4キロ)を往復しても〈へともをもはぬたっしゃ(全然大丈夫の意)〉と記しています。103歳まで生きた片岡球子(1905~2008年)は富士山を描くために65歳で神奈川県藤沢市に転居した。週に一度は富士山まで写生に出かけ、90歳を超えても現場で描いていたといわれます」

 東山魁夷(1908~1999年)も61歳でドイツやオーストリアを約5カ月間旅しながら帰国後、制作に打ち込み、64歳で18点の「白い馬の見える風景」シリーズを発表。65歳になると、新たに水墨画の世界へ入っていく。

「一般の世界であれば定年後ともいえる年齢になってから、彼らはより精力的に動いている。そして描く題材を探しに屋外を歩き回っていたことで自然と足腰が鍛えられ、肉体的な若さの維持に寄与したであろうことは想像にかたくありません」

 つまり彼らのライフスタイルが知らず知らずの間に脳を活性化させ、さらにはテロメアを維持させていたようなのだ。

 とはいえ、むろん我々は画家ではない。絵筆を握ることもなければ、サラリーマンなら定年もある。ならばこうした健康長寿画家から何を学べばいいのか。

「確かに会社には定年退職があるかもしれませんが、脳には定年なんてないし、そもそも人生に定年退職など存在しない。まずはそれを心に刻むことです。脳は飽きっぽくて単調なことの繰り返しが苦手なので、使う部分が限られていると広範囲な神経ネットワークが活動しなくなり、萎縮の片棒を担ぐことになりかねない。例えば朝起きて同じメニューの食事をして新聞に目を通し、ぼんやりしていると昼御飯。テレビはつけっぱなしで、漠然とネットサーフィンをする。こんな生活を続けていると、脳は確実に衰えていくはず」

 一方、画家はというと、

「描くという目的のためなら、時間をいとわずキャンバスに向かい、絵の題材となる対象を探して旅にも出た。そして歩き回り、描きたいものを徹底的に観察。さらに心に浮かんだ事の記憶を呼び起こしました。彼らはそれらを意図せず、自然と広範囲な神経ネットワークを使っていたので、神経細胞の死滅が遅かった」

 つまり、こうした画家のような行動を意図的に取り入れれば、健康長寿の可能性が高まるというのだ。

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