高名画家に学ぶ「健康長寿」の必須5カ条(2)脳の解剖で驚愕の若さが判明

 そもそも、画家という職業には定年がない。それも彼らを健康長寿に導いた要因のひとつでは、と霜田医師は指摘する。

「特に男性の場合は定年を境にして燃え尽き症候群になったり、自分の居場所を確保できないと取り残された気分になってしまう人もいます。一方、定年がない画家たちにとって、時間的制限は自分の命の期限だけ。決められたタイムリミットや外から与えられる節目がないため、どんどん自分を高めていこうという意欲が湧いてくる。そこも我々一般人との大きな違いかもしれません」

 つまり「過去」や「未来」ではなく「今を生きるためには何をしなくてはならないのか」という姿勢が、結果的に無駄なストレスを排除しているというのだ。

「北斎は生涯に93回も転居を繰り返したことで知られますが、その理由は絵のこと以外にまるで興味がなく、片づけが面倒だったという説が有力です。ストレスと免疫との関係はよく知られるところですが、北斎が衛生的とは真逆とも思える環境で生活しながら、感染症で命を落とすこともなく健康状態でいられた。彼のライフスタイルがストレスレベルを恒常的に下げ、テロメアを短くしなかった可能性もあります」
 
 89歳で逝去した横山大観(1868~1958年)は、一時危篤状態に陥った88歳の時、朦朧とする意識の中で大好きな酒1合を口にしたところ、脈の乱れが治まり、医師も驚くほどに回復。その後は朝1合、昼と夜は2合の酒を「エネルギー源」とし、最後の作品である「不二」を描き上げた。

「大観の脳は東大医学部に保存されているのですが、病理解剖によると、加齢により進む脳の萎縮が60歳程度で、重さも日本人男子の平均を上回っており、血管には動脈硬化がみられなかったとか。つまり89歳にもかかわらず、驚くべき若さを保っていたということになります」

 最晩年まで「浴女たち」など豊満な裸婦を描くことにこだわり続け、それを貫き通したルノワール(1841~1919年、78歳没)。また、79歳で結婚、亡くなる91歳まで精力的に描き続けたピカソも「英雄色を好む」のことわざどおり、まるで数多くの女性たちのエネルギーを吸い上げるようにして、次々に作品を変容させ、名画を世に出していった。

「脳のMRI検査では、ストレスが長期に及んで強くなると、海馬の神経細胞がダメージを受け、萎縮することが明らかになっています。そうならないためには、規則に縛られず脳を自由にし、ストレスをできるだけ少なくしてテロメアを温存する。そうすることで脳の神経ネットワークも活発になるというわけです」

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