高名画家に学ぶ「健康長寿」の必須5カ条(1)命のロウソク「テロメア」の長さ

 日本人の平均寿命が50歳を超えたのは1947年。ところが高名な画家たちを見ると、80歳以上は当たり前、90、100歳超えもゴロゴロいる。いったいナゼ? 長生きしたけりゃ画家の生活習慣に学ぶべしと、不思議な「不老脳」の秘密を脳神経内科医が解き明かす。

 まずページ下部にある、著名画家の没年齢をご覧いただきたい。80代なんてまだまだ序の口。100歳超えが何人もいることに驚くはずだ。なぜ彼らは大病することもなく長寿を全うできたのか。彼らの生活を医学的見地から研究し、その謎に迫ったのが、銀座内科・神経内科クリニックの霜田里絵院長である。

「例えば葛飾北斎(1760~1849年)は、きちんとした衛生環境や医療が整っていない江戸時代に、当時の平均寿命からかけ離れた88歳まで生き抜いています。また、ミケランジェロ(1475~1564年)に至っては、ルネサンス期という15~16世紀の時代に88歳で逝去し、その晩年まで制作を続けている。しかも注目すべきは、彼らはただ長生きしたというだけではなく、晩年まで精力的に作品を描き続けたという事実。つまり、健康長寿だった。これは偶然とは思えない。必ずどこかに理由があるはずだと‥‥」

 その秘密を解くカギとして注目したのが「テロメア」だった。これは「命のロウソク」とも称される、染色体の安定化に欠かせない構造体。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなっていき、その長さが出生時の半分近くになると、染色体が不安定になる。

「細胞の死がそのまま人の死になるというわけではありませんが、テロメアが短くなりすぎると細胞分裂が停止してしまうことから、テロメアと寿命には深い関係があるとされています。テロメアは加齢とともに短くなりますが、逆に伸びることもあり、それには生活習慣や精神状態が大きく関与するといわれます。長寿画家には共通する特有の生活習慣や精神状態、つまり心のあり方があって、それが寿命に結びついている可能性があるということです」

 そこで長寿画家たちの生活を見てみると─。

 91歳で逝去したパブロ・ピカソ(1881~1973年)は油絵をはじめ、版画や挿絵など生涯で約15万点も制作し、多作アーティストとしてギネスブックにその名を残したことでも知られる。

「脳について言えば、絵を描く際、立体的に全体像を把握したり、キャンバスの中に絵をバランスよく収めるために頭頂葉が働きます。指を動かすためには前頭葉の運動野が、そして描くために集中したり、計画を立てたりひらめきを得たりするためには前頭前皮質が働きます。さらに、測定した対象を絵に描くためには、大脳基底核や小脳が働く。つまり絵を描くにあたっては、脳の多くの部位を動員させなければならない。彼らはそんなことを一年中やっている。それが知らず知らずのうちに訓練になって、脳を若々しく維持する要因となった可能性はあります」

 脳の機能は「加齢とともに衰えていく」という定説があった。だが最近の研究では、脳の各部位を使い続けることで機能を強化させることも可能なことがわかっている。長寿画家は絵を描くことで意識せず脳を広範に使い、脳機能を若返らせていた可能性があるのだ。

■主な日本画家の没年齢

篠田桃紅106(存命中)/小倉遊亀105/片岡球子103/奥村土牛101/梅原龍三郎97/中川一政97/熊谷守一97/鏑木清方93/前田青邨92/東山魁夷90/横山大観89/葛飾北斎88/仙厓義梵87/富岡鉄斎87/雪舟87/小磯良平85/岡本太郎84/伊藤若冲84/白隠慧鶴83/福田平八郎82/

■主な世界的画家の没年齢

シャガール97/ピカソ91/ミロ90/ミケランジェロ88/モネ86/マティス84/ダリ84/ドガ83/ゴヤ82/ルノワール78

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