患者の9割が中高年男性、“柔らかい膨らみ”に要注意/健康宅配チェックシート〈鼠径ヘルニア〉(1)

 ふと思い立ち、入浴前に脱衣所の鏡で自分の体をチェック。相変わらずのビール腹を嘆きつつも「おや?」と、太ももの付け根にあるポッコリ膨らみに気がついたら警告アラート発令! すぐにでも外科手術の段取りをつけないと、命にかかわる危険性が潜んでいるのだ。

 よく耳にする「ヘルニア」とは、首や腰回りの不具合のみをイメージするだろう。しかしながら、実際には体内の臓器などが本来あるべき位置から脱出した症状そのものを指す医学用語だ。中でも、腸や内臓脂肪が腹の中から鼠径部の筋膜を突き破って出てきてしまうのが「鼠径ヘルニア」と呼ばれている。大阪市北区にある「MIDSクリニック」の田村卓也院長が解説する。

「まず、筋膜というのは筋肉を包んでいる薄い膜です。コラーゲンなどのタンパク質で構成され、伸縮性に富んでいるのが特徴です。体の形状を保つ役割を担っているだけに『第二の骨格』とも呼ばれています。残念ながら、筋肉と違って鍛えることができず、年齢を重ねるごとにハリや弾力が低下してしまいます。だんだんと筋膜でできた筒状の隙間『鼠径管』の入り口である『内鼠径輪』が、内臓などの重さによる腹圧に耐えられなくなり、穴が開きやすくなってしまうのです。別名『脱腸』ともいいます」

 驚くべきことに、患者の9割を40代~60代の男性が占めている。

「男性の3人に1人が生涯にわたって経験すると言われています。胎児期にお腹の中で作られた精巣は、生まれるまでに鼠径管を通って陰囊の中に移動します。そのため、女性よりも男性は鼠径管が太い構造になっているのです。通常、鼠径管にある『腹膜症状突起』という袋は生まれるまでに閉鎖されますが、腹圧などの影響で再び膨らみができてしまいます」

 大きく2つのタイプが存在する。1つ目は「外鼠径ヘルニア」だ。

「いちばん多く見られます。先で説明したように鼠径管という“トンネル”に腹圧がかかって、腸などが押し出されてしまうタイプ。子供で発症する場合は、先天的に鼠径管の腹膜症状突起が閉鎖されずに生まれるケース。泣いたり、排便をしたりと腹圧が上がるたびに腸などが飛び出しては、自然に元に戻るのを繰り返してしまいます。男女関係なく1~5%の割合でいると言われています」

 2つ目は「内鼠径ヘルニア」。こちらは腹の内側にある筋膜が袋状に伸びてしまう症状だ。

「この袋状のものを『ヘルニア囊』といいます。加齢とともに脆弱化しやすい『鼠径三角』という腹直筋のすぐ外側にある筋膜をお腹側から押し出してしまいます。中高年によく見られる症状です」

 不思議なことに、初期段階では軽い違和感や、下腹部に引きつるような痛みがある程度。それでも、体の見た目に明らかな変化が現れるという。

「鼠径部に柔らかい膨らみができます。初期の大きさは2~3センチ程度のピンポン玉大。お風呂場などでふと気づいて、来院される人は少なくありません。寝たり、手で押し込んだりすると一時的にへこんでしまいます」

【「鼠径ヘルニア」セルフチェックシート】

以下の項目のいずれか1項目でも当てはまれば医療機関へGO!

・太ももの付け根に柔らかい膨らみ(ピンポン玉ほど)がある
・立って見下ろした時に右と左の鼠径部の膨らみに差がある
・過去に脱腸と言われたことがある
・立った時やお腹に力を入れた時に膨らみが大きくなる
・仰向けに寝たり、押し込んだりすると膨らみが平らになる
・脚の付け根に違和感がある

▼以下の項目に当てはまる人は予備軍の可能性アリ!

・1日に6時間以上の立ち仕事をしている
・1日にトータルで4トン以上の荷物を上げ下ろしする
・内臓脂肪型の肥満
・どんなに食べても太らない体質

(つづく)

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