【北朝鮮】金正恩の愛娘・ジュエの“本当の名前”で注目される「異例の漢字」の謎

 2022年11月に初めて公の場に登場した際には、「最愛の」娘として紹介され、その後、形容詞が「尊敬する」娘に変更。最近では、将来の指導者としての地位を確立したのか「尊敬する同志」と呼ばれるようになった、北朝鮮の金正恩総書記の娘とされるジュエ氏。

 韓国国家情報院も当初は「10歳前後の女の子を後継者としてお披露目することに疑問が残る」「正恩氏には長男がいるはず」等々、ジュエ氏を金総書記の後継者と見なすのは性急、との声が大半を占めていた。しかし、近年では同院も「あらゆる可能性を考慮している」と発言。組織内でも彼女が後継者と見て間違いないだろうという意見が大半を占めるようになったとされる。

 その大きな要因となっているのが、脱北者たちによる“証言”だ。特に最近は一般庶民だけでなく、労働党や軍幹部の脱北者も目立つようになっており、中でも2023年11月に韓国に亡命した北朝鮮の元在キューバ大使館参事官、リ・イルギュ氏の証言は大きいとされる。

 北朝鮮ウォッチャーの話。

「北朝鮮では16年に、在英北朝鮮大使館でナンバー2の地位にある公使を務めた太永浩氏(韓国の元国会議員)をはじめ、19年には駐イタリア大使代理の任にあったチョ・ソンギル氏も現地で消息を絶った後、脱北。同年にはシリアやクウェートなどで大使代理を務めたリュ・ヒョヌ氏も家族と共に脱北するなど、北朝鮮内部を知り尽くしたエリート外交官が相次いで脱北しています。特にリ氏は、北朝鮮の『血盟』とも呼ばれるキューバで2度勤務し、北朝鮮外務省きってのキューバ通として知られた人物。キューバのほか、アフリカやアラブ、ラテンアメリカ局に所属したこともあり、脱北前には韓国とキューバの国交樹立の動きを阻止する業務も担当。ところが、職務評価などを巡って外務省本部と対立。結果、体制への嫌気と未来への悲観から亡命を決意したと伝えられています」

 リ氏は脱北後、積極的にメディアにも出演。北朝鮮の知られざる現状を暴露しているが、7月には韓国紙「朝鮮日報」の取材に対し、北朝鮮で国営メディアを通じて発表される正恩氏の妹・与正氏名義の米韓批判談話は、全て正恩氏の指示により作られた文言で、決定前に与正氏がその内容を目にすることはできないと暴露。つまり、“与正談話”とは名ばかりで、彼女はただ文章を読み上げているに過ぎなかったことが明らかになった。

 加えて記事の中で明かされたのが、正恩氏による愛娘ジュエ氏への溺愛ぶりだった。

「リ氏によれば、正恩氏はどこへ行くにもジュエ氏を同行させ、『姫』と呼んでは部下たちに“お披露目”させていたのだとか。同紙のインタビューでリ氏は『今のように露出されていると神秘を感じるだろうか。これから自分の子どもたちが、あの幼い者の前でかがんで生きなければならないという現実にあきれた』と語り、それも脱北を決意する理由の一つだったと心情を吐露しています」(同)

 そんなリ氏が韓国の東亜日報系のケーブルテレビ局「チャンネルA」のインタビューで、「実はジュエ氏の名前は本当は『ジュイェ』だった」と明らかにしたのは9月4日のこと。同氏は「娘の正確な名前を知った経緯を言えば、北朝鮮にいる友人に迷惑がかかることになる」としたうえで、「北朝鮮高官の大多数が、その名前をと認識している」と語っている。

 報道によれば、「ジュ」を漢字で表示すると「主」「朱」「珠」、また「エ」は「愛」、そして「イェ」は「芸」「礼」となることから、「ジュイェ」なら「珠芸」「珠礼」などの漢字表記が使われている可能性が高い。ただ、軍事国家である北朝鮮では「愛」と表記はほぼ使うことがないため、「ジュイェ」の表記が「愛」だった場合、異例中の異例ということになるが…。ともあれ、謎に包まれた北朝鮮の厚いベールがまた1枚はがされることになったようだ。

(灯倫太郎)

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