中国と北朝鮮との間に吹き始めていた隙間風が、いよいよその強さを増してるようだ。
今年7月11日、平壌の中国大使館では中朝友好協力相互援助条約の調印63周年を記念するレセプションが開催された。しかし同大使館の発表によると、北朝鮮側からの主な参加者は最高人民会議(国会)の朝中友好議員団委員長を務める金日成総合大学の総長のみ。驚くことに党・政府対外部門の幹部は全く参加せず、昨年の式典に最高人民会議常任委員会の姜潤石副委員長が出席していたことを考えると“格落ち”となったことは明らかだ。
北朝鮮ウォッチャーが解説する。
「実は今年は中朝国交樹立から75年とあって、4月には全人代常務委員長を務める習政権ナンバー3の趙楽際氏が2日間の日程で北朝鮮を公式訪問。金正恩党総書記らと会談したのですが、中国大使館公式サイトに掲載された行事記載は北京での中朝条約レセプションのみ。他の行事については一切触れていないんです。通常であれば訪問中の交流などが詳細に掲載されるため、この1点だけをとってみても両国間の冷え込んだ現状が見て取れます」
また韓国メディアによれば最近、北朝鮮はそれまで使用していた通信衛星を中国からロシアにチェンジ。さらに中国のSNS「微博(ウェイボー)」上にあった北朝鮮のサイトも別のアカウントに差し替えられデータがすべて消滅していることから、中国当局がなんらかの規制を敷いた可能性もあると報じている。
「両国の関係が冷え込んだ理由に一つに、北朝鮮が今年6月、プーチン大統領と間で締結した『包括的戦略パートナーシップ条約』があることは言うまでもないでしょう。対米という意味では中国とロ朝との連携に変化はないものの、中国としては北朝鮮がロシアに対し大手を振って武器弾薬を提供することで、米国に対中包囲網強化の口実を与えたくないという思惑がある。一方北朝鮮としては、日中韓首脳会談の共同宣言で中国が『朝鮮半島の平和と安定』と『非核化』に言及するなど、主敵とみなす韓国をはじめ米国陣営とやりとりすることが面白くない。結果、その辺りが両国に不信感を募らせる要因になっていると思われます」(同)
そんな中、9月13日付の韓国紙「中央日報」が、複数の対北朝鮮情報筋からの情報として、中国当局が最近、国境地域での北朝鮮の密輸行為に対する取り締まりを強化している、との記事を掲載し、波紋が広がっている。
記事によれば、中国側は取り締まりで、陸路だけでなく船舶を利用した海上密輸まで範囲を拡大。公安や海関、海警などを動員し、北朝鮮の密輸品差し押さを強化しているという。
「欧州を出発して中国経由で北朝鮮に向かう密輸品の中には、通称『1号物品』と呼ばれる金正恩氏が直接使用するぜいたく品や、嗜好品等の『金正恩専用品』も含まれ、北朝鮮側は『最高指導者(金正恩)同志が使用する物品だけでも返してほしい』と要請したそうなのですが、中国側は返還を断固として拒否したとの情報もある。それが事実なら、これは中国側による、いかなる例外に認めないという意思表示であり“警告”でもあるということです」(同)
さらに、北朝鮮情報筋によれば、中国公安部は密輸業者を逮捕するだけに留まらず、対北朝鮮物資供給担当者も拘束。過去にさかのぼって密輸業者の金の流れを追跡し関連口座を凍結するなど、徹底した取り締まり強化に乗り出したとも伝えられる。
「実は未確認ながら、押収品の中には金正恩氏が進める偵察衛星のために必要な部品や、軍需品など核心物資も含まれており、この取り締まり強化が原因で、今年の偵察衛星発射計画が縮小されたという情報もあるようです。つまり、5月に一度打ち上げに失敗したあと、その後動きを見せていないのは、それが原因である可能性も高いということです」(同)
とはいえ、現在も北朝鮮の対外貿易は90%以上が中国に依存しているため、当然、報復措置に出るわけにもいかない。そこで、北朝鮮は今、必死になって新たな密輸ルート確保に務めていると伝えられるのだが…。
圧倒的な力を誇示する中国の、北朝鮮への見せしめとも思える圧力はしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)