交流戦でも大健闘。矢野阪神がセ・リーグ戦線に想定外の旋風を巻き起こしている。派手なガッツポーズで選手を鼓舞する、喜怒哀楽の激しい指揮官の采配に虎党は狂喜乱舞だ。一方で賛否両論が飛び交う「矢野劇場」の舞台裏をのぞいた。
ベンチから白い歯と満面の笑みで右手を突き出す。ヒットやファインプレー、タイムリーや逆転でもあろうものなら、矢野燿大監督(50)のガッツポーズは激しさを増す。塁上では選手もガッツポーズで呼応。少年野球さながらの光景が、今や阪神名物となった。
そうかと思えば、原口文仁(27)がサヨナラ打を決めた6月9日の日本ハム戦後の会見では、「めちゃくちゃ感動した」と途中、涙をこらえきれず中断するアクシデントもあった。
「ガンを克服した原口の復活劇だけでなく、北條史也(24)、髙山俊(26)という、2軍監督時代から苦労を知る選手が9回二死から諦めずに連打でつないでサヨナラの舞台を作ったことにも感動したようです」(球団関係者)
まさにお芝居を観ているかのような「矢野劇場」である。
目ざとい阪神の営業部がTシャツやタオルのグッズを作って便乗商売に乗り出そうと命名したのが「矢野ガッツ」だ。日本ハム時代に「ガッツ」と呼ばれた現・中日2軍監督の小笠原道大(45)や、ボクシングの元世界王者・ガッツ石松など、過去に「ガッツ」を名乗ったスポーツ選手はいるが、そのガッツポーズ自体に自身の名前を冠されたプロ野球監督はいないだろう。
「自分が楽しまんと選手も楽しめんやろ? 批判があろうがやりまくるで!」
と、矢野監督自身もノリノリなのだ。関西のメディア関係者が言う。
「そもそも矢野ガッツの始まりは、唯一、外部から招聘した清水雅治ヘッドコーチ(54)のアイデアです。3月に行われた侍ジャパンの強化試合に外野守備走塁コーチとして参加していた清水ヘッドが、お祭り騒ぎで野球を楽しむメキシコチームの雰囲気に刺激を受けて『うちでもやってみましょうよ』と矢野に持ちかけたんです。矢野監督と清水ヘッドは中日時代に同じマンションに住んでいたほどの盟友ですから、その進言をすんなり受け入れました」
矢野監督は2軍監督時代から、選手にヒーローインタビューのマネ事をさせたりと、ポジティブ思考でチームを変えようと取り組んできた。それだけに清水ヘッドの進言は、まさに自分の考えとマッチしたのだろう。
「矢野監督は昨年、2軍監督就任と同時にいわゆる自己啓発など、啓蒙書の類いを読みあさり、特にアドラー心理学に心酔していた。その影響を受けての指揮は『スピリチュアル采配』と言えるかもしれませんね。ミーティングでは、本でかじった名言や訓話が飛び出し、若手には好評でした」(在阪スポーツ紙記者)
ドイツの有名な心理学者として知られるアルフレッド・アドラーの心理学にも「怒る」「叱る」などの縦の関係よりも感謝の意を重要視する横の関係を大切にしなさいとの教えがあり、その理論が、一緒になって楽しむガッツポーズの根拠になっているのだ。