神社やお寺の境内にある樹木でもひときわ立派なのがしめ縄が巻かれたご神木。その寺社の聖域とも呼べる大切な場所だが、大阪府寝屋川市の京阪本線『萱島駅』にもご神木がある。しかも、高架式ホームと屋根を突き破る形で生えており、〝ご神木のある駅〟として鉄道ファンたちの間では有名だ。
実は、ここにはもともと萱島神社があったが線路の高架複々線化とそれに伴う萱島駅の改修工事の予定地になっており、当初は伐採されるはずだった。ところが、地元のシンボルとなっていたご神木を保存してほしいとの声が地域住民の間で起こって伐採を撤回。ご神木を残す形で工事計画が変更されたのだ。
ちなみに「萱島の大クスノキ」と呼ばれるご神木の高さは20メートルで、幹回りは7メートル。推定樹齢は700年で萱島神社が創建(1787年)された時期よりもずっと古い。
「神社自体は1907年に廃社になっており、工事のために取り壊されたわけではありません。しかし、京阪電車は1980年に駅構内のご神木の根本付近に小さいながら社殿を寄進。それによって73年ぶりに萱島神社が再興されました。現在なら環境や地域社会に配慮するのは当然ですが、70~80年代はまだ企業のご都合主義で乱開発が住んでいた時代。ご神木の保存も含め、素晴らしい判断だったと評価されています」(鉄道ジャーナリスト)
一方、山梨県甲州市にあるJR中央本線「甲斐大和駅」は、駅近くの諏訪神社に巨大なホウノキがご神木として祀られていたが、1901年に線路を覆っていた枝葉の一部を伐採。すると、作業に関わった保線作業員が次々と亡くなり、1951年にも同様の理由で枝を切り落とすと、不可解な事故などにより作業員たちが命を落としている。ご神木の脇にある自治体が設置した看板にも「古来からこの神木を疎かにすると、不祥の事件がおこると信じられているので、神意に逆らわないようにしている」と記されているほどだ。
なお、現在はご神木の裏手にある線路部分には屋根を設置。枝葉も伐採できず、かといって保線作業員の安全を守らなければならない。鉄道会社も大変なのだ。
(高島昌俊)