ウェブ媒体のあおりを受け、ロック系専門誌が軒並み苦戦を強いられる中、老舗ギター月刊誌「YOUNG GUITAR(ヤング・ギター)」12月号が驚異的な売れ行きを記録。専門誌としては異例となる1万部の緊急増刷に踏み切った。
多くの雑誌を発行する出版社関係者が言う。
「月刊誌・週刊誌の売り上げは、1997年をピークに右肩下がりとなっており、特に月刊誌にいたっては、今年に入って『ミセス』や『JJ』といったファッション誌が休刊や月刊発行の休止を発表しており、その落ち込みぶりが目立ちます。一方、1969年に創刊された『YOUNG GUITAR』は、国内外の技巧派のロックギタリストに特化し、彼らの演奏法や使用するエレキギターはもちろん、周辺機材にいたるまでカバー。音楽ファン全般というより、ギター好きなコアなファンによって支えられてきたと言っていいでしょう」
そんなこともあって、12月号では10月6日に咽頭がんのため65歳で死去したハードロックバンド、ヴァン・ヘイレンのギタリスト、“エディ”ことエドワード・ヴァン・ヘイレンさんを表紙に据えた“追悼総力特集”を掲載。すると、発売から2日後の11月12日には全国の書店で売り切れが続出、通販大手「Amazon」でも在庫切れとなり、増刷決定後の11月24日現在も、発送までに1週間から3週間かかるという。
「この特別号には、スティーヴ・ルカサーをはじめ、ゲイリー・シェローン、ジョージ・リンチ、スティーヴ・ヴァイなど、往年のギタリストファンにはおなじみの“盟友”たちが、エディを語る独占インタビューのほか、幾度となく取材をしてきた老舗雑誌だからこそ撮影できた秘蔵写真も余すところなく掲載されています。エディが亡くなった後、世界各国のメディアで追悼特集が組まれていますが、これほどまでに濃い内容はない、ダントツの出来だとしてファンからも最上級の評価を得ているようです」(音楽専門誌編集者)
ロック・ギターに革命を起こし続けた、不世出の天才ギタリスト、エディさんが、初めて「YOUNG GUITAR」の表紙を飾ったのは、2枚目のアルバム「伝説の爆撃機」をリリースしたのと同時期にあたる1979年1月号。
「当時はラリー・カールトンや、リー・リトナーといった、フュージョンギタリストが人気を集めていましたが、そんな中ですい星のごとく現れたのがエディでした。以来、『YOUNG GUITAR』では、約40年もの間に27回も表紙を飾っていることから、同誌とエディとの関係の深さが伺えます。日本でもエディに影響されたギタリストは、、B’z(ビーズ)の松本孝弘ほか、44MAGNUMの広瀬さとし、元アンセム(Anthem)の福田洋也など、枚挙にいとまがない。というより、影響を受けなかったギタリストを探すほうが難しいでしょう。つまり、エディの残したDNAは、海外だけでなく日本のギタリストにも受け継がれ、今もなお、多大な影響を与えているということ。そして、まだ見ぬ音楽のなかでも永遠に生き続けていくことでしょう」(前出・編集者)
今回の「YOUNG GUITAR」緊急増刷をもたらした大特集は好評で、SNS上には、《日本の雑誌としてこれ程までにギタリストの真髄に迫れるのは、恐らくヤング・ギターぐらいでしょう》《他誌の薄っぺらい記事とはレベルが違うと感じました。ガチファンはYGだけ買えば充分です、マジで》と絶賛するコメントであふれ、さらには、《エディの死後、様々な雑誌が追悼記事を掲載していますが、どれも足元にも及ばない。編集部のエディに対する愛情や熱い思いがビンビン伝わってきます。皆さん、本当にお疲れ様でした!》と、編集者へのねぎらいの言葉も見られた。
偉大なギタリストに最大限の愛情とリスペクトを注いで作り上げた雑誌に、注目が集まっている。
(灯倫太郎)