「アクセルペダルを踏み続けた記憶はありません。車に何らかの異常が発生し、暴走を止められなかった」
10月8日に東京地裁で行われた初公判で、起訴内容に異を唱えて無罪を主張したのは旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)。2019年4月、東京・池袋で運転していた自動車を暴走させ、母子2人をはねて死亡させ、9人に重軽傷を負わせたことで過失運転致死傷の罪に問われている。
冒頭の「無罪主張」に検察側は「ブレーキやアクセルに異常はなかった。アクセルペダルを踏みこんだデータはあるが、ブレーキは踏んでいない」と述べて真っ向から対立する姿勢を見せた。
「被告人は法廷では遺族に謝罪の弁を述べたものの、被告の主張は暴走の責任すべてを自動車の不具合に押しつけるものでした。これにはデヴィ夫人がSNS上で《人の命を何だと思っているのだろう》《罪を認めて罰を受け、被害者に心から謝罪すべき》と怒りをあらわにしていましたが、おそらくニュースを見た大半の視聴者が同じような憤りを覚えたのではないでしょうか」(メディアライター)
弁護側は無罪を主張しているが、もし仮に有罪となればどんな量刑がくだされるのか。交通裁判に詳しいジャーナリストによれば、
「一概に比較をするのは乱暴かもしれませんが、類似のケースでは2016年に福岡で起きたタクシーの暴走事故が挙げられます。60代の運転者が市道を走行中に、アクセルとブレーキを踏み間違え、時速80キロ以上に加速して医療施設に激突。現場に居合わせてしまった40代の夫妻と50代の男性、計3人をはねて死亡させ、7人に重軽傷を負わせました。被告人は一貫して車の不具合が原因だと主張していましたが、科捜研などの調べで自動車に異常は見られませんでした。この車両検証の結果が決め手となり、一審で有罪判決。二審でも禁錮5年6月の一審判決を支持する判決がくだされています」
禁錮刑となれば、刑務所へ収監されることとなるが、飯塚被告と弁護側としては、遺族感情よりも、「潔白」の証明に舵を切ったということか。
「そろそろ90歳に差し掛かる高齢では、刑務所暮らしは厳しいものになるのでは…」
と語るのは、刑務所事情に詳しい裏社会ライターだ。続けてその内情を語るには、
「懲役と違って禁錮刑には労役の義務がないので、自由な時間はあるにはあると思います。また、交通刑務所となれば、他の刑務所にくらべて“行儀”のいい受刑者ばかりですからね。密告やシャリあげ(食事を没収すること)など、理不尽なイジメなどにあうこともないと思います。とはいえ、冷房や暖房などはいっさいなく、夏は地獄の暑さ。冬は敷き布団が凍るくらい冷えることもある。きついのが風呂。とくに高齢者ばかりの収容施設では、湯舟に排泄物が浮かんでいることも日常茶飯事。私が取材した中でも、交通刑務所にいたという元受刑者の一人は、約3年間の服役中、一度も湯舟につからなかったと語っていました。シャバの常識がまったく通用しないし、刑務官だって見て見ぬふりですよ」
今回の池袋暴走事故については、一部のメディアが被告人を「元官僚」「上級国民」などと大々的に報じたことで、世間の関心は大きな高まりを見せている。判決後の処遇も気にかかるところだが、この痛ましい事故を教訓に、これ以上被害者が出ないことを願うばかりだ。
(倉田はじめ)