新現代病「五十肘」が不眠症を引き起こす(1)痛みのストレスで熟睡不能に

 五十肩ならぬ「五十肘」なる症状が中高年の間に急速に広がっているという。これまで肘の酷使による激痛はブルーカラーの患者が中心だったが、ここにきて状況が一変。スマホやキャリーバッグの濫用により、思わぬ症状に悩まされている人が激増しているのだ。ひどい場合には不眠症に見舞われる「新現代病」の実態に迫る。

 50歳になったばかりの佐伯宏さん=仮名=が、利き腕の右肘の激痛に襲われたのは昨年秋のこと。勤務している飲食店の厨房での出来事だった。

「最初は、それほど大げさなこととは思っていなかった。正直、職業病みたいなものだからとタカをくくっていたんです。ところが仕事柄、どうしても肘に負荷がかかることが多くて、そのたびにズキンという鈍痛としびれに襲われるんです。落ちているものを拾おうとしたり、ものをつかもうとすると激痛が走る。食器を片づける時も痛むので参っています。仕事を休むわけにもいかず、痛みが頻繁に訪れるのでストレスがたまったのか熟睡できなくなり、しばらく不眠症になりました」

 いまさら肘の痛みで病院に行くのも、とためらわれたが、一向に激痛が収まる気配もなく、ようやく病院を訪れたのは、激痛に気づいてから2週間ほどが経過した頃だという。

「医師は症状を聞くと、すぐに『五十肘』だと言いました。よりによって自分が50歳だから、本当になるんだなと思いましたが(苦笑)‥‥。五十肩なら聞いたことがありましたが、意外と最近増えているらしくて、安静を言い渡されたんです。そこから痛みがひくまでは若手に厨房を任せましたが、いつまた再発するかと気が気でないですよ」(佐伯さん)

 読者の中にも職業柄、肘の痛みに悩まされる人も少なくないだろう。手や腕の動きが制限され、日常生活に支障があるばかりか、勤務に影響するケースもあるだけに、中高年男性には注意が必要だ。

 東京都葛飾区にある「おその整形外科」の於曽能正博医師が解説する。

「五十肘という表現は比較的新しいですが、正式な病名は『上腕骨外側上顆炎』と呼んでいます。テニス肘やスマホ肘と同じ類いです。ものをつかんで持ち上げる動作やタオルをしぼる動作、ペットボトルの蓋をひねる動作などをすると、肘の外側に痛みが生じるもので、安静時の痛みはほとんどないことが多いです。肘関節外側の筋肉が骨につく部分にはたくさんの神経があります。この方は、神経の繊維の何本かが切れて炎症を起こした可能性が考えられます。ただし、何もしていないのに突然切れるというのはごくマレなこと。日常生活で肘を酷使するなどして、筋が伸びていたかもしれません」

 肘の筋肉は、前腕や手首を手のひら側に曲げる「屈筋」と、手の甲側に曲げる「伸筋」に大きく分けられる。肘の内側についている太い「屈筋」に比べ、外側についている「伸筋」は細い。於曽能医師が続ける。

「ものを自分に引き寄せるような動きに使う『屈筋』はふだんからよく使うため、鍛えられていますし、痛めにくい。一方の『伸筋』は、強く動かす必要がなく、筋肉が鍛えられていません。肘や手首に無理に力を入れていると少ない伸筋に大きな負担がかかり、炎症を起こしてしまうのです」

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