以前から問題視されていたエスカレーターでの歩行。右側(※関西は左側)を歩いて上り下りする人のために空けてある光景をよく目にするが、通り際にぶつかって転落するなどの事故も各地で起きていたからだ。
そうした中、埼玉県議会では3月26日に「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が可決。全国では初めてエスカレーターでの歩行を条例で禁止にした。
実は、エスカレーターの安全基準は歩行することを前提としていない。業界団体の日本エレベーター協会が20年に行った調査によると86.9%が歩行をやめたほうがいいと回答している。
だが、今回の埼玉県のように法的に禁止するケースは海外ではほとんど見られず、日本以上にエスカレーターでの歩行が当たり前のものとして受け入れられているという。
「もともとエスカレーターを歩く文化は100年前から欧米にあり、それが日本でも定着しました。過去にロンドンやニューヨークのでは一部の駅で試験的に歩行禁止となりましたが一時的なもので、ほとんど改善されていません。日本と違って反対する声が多く、今もロンドンの地下鉄駅では左側を歩行者レーンとして空けるように促すパネルがあります」
そう語るのは、国内外のエスカレーター事情に詳しいライター。海外では片側空けをむしろ奨励するのが一般的で、本来は日本同様に禁止扱いのベビーカーや自転車での利用が黙認されているところも珍しくないとか。
「歩行に関してはルールとして認められており、バンコク(タイ)やドバイ(UAE)の鉄道駅のように歩行者レーンを示すステッカーを貼っているところが多い。つまり、歩行禁止というルールは日本独自のもので世界基準ではないんです」(前出・ライター)
日本では歩いてはいけないと決められている以上、それを守る必要があるが、海外では歩行レーンを塞ぐ形に立ってるのは逆にルール違反になるところも。ところ変われば常識も異なるのだ。
(高島昌俊)
*写真はロンドンの地下鉄駅