【Book】ホントーク〈ゲスト/ダースレイダー〉(3)明るい病人がいたっていい!

鹿島 視力を失うことでむしろ物事の考え方とか、視野は広がったそうですね。

ダース 色々なニュースを見た時に、自分の体験と関連づけて見るようになりました。例えば、17年の財務省の公文書改ざん問題も、血液検査を受けた時のデータを捨てられたら、そのあと検証できないなと。

鹿島 確かにユーチューブの時事ネタトークで、ダースさんは、自分のこととしてとらえて伝えています。それがわかりやすくて、いつも感心しています。

ダース ちゃんとした情報が与えられないとか、選択肢が隠されていることで不利を受けるというのは、社会のいろんな問題にそのまま当てはまります。

鹿島 まさにそう思います。そして脳梗塞のあと、さらに余命5年と言われる出来事があったんですよね。

ダース はい。腎臓も悪くなってきて、40歳の時に「何も手を打たなかったら、5年で死んじゃいますっ」て医師から言われました。でも、5年の間に何をやるのかを考えながら生きた方が、突然、人生が終わっちゃうよりは、いいんじゃないかな、というふうにとらえ直しました。

鹿島 無事に5年を迎えられていますけど、さらにもう1回、命の危険があったとか。

ダース 42歳の時ですね。今度は、代謝性アシドーシスという血液が酸化する病気になりました。救急車で運ばれて「今日来てなかったら、死んでましたよ」と。

鹿島 食事とか大変じゃなかったですか。

ダース 塩分と糖分、それとタンパク質を制限してます。塩分は1日6グラムまでなので、計算してあとこれくらいとれるぞ、とゲーム感覚で乗り切っています。しょうゆをつけないでわさびや生姜を使ったり、1日1食は冷凍の腎臓病食を食べています。

鹿島 僕は隣でのんきにビールを飲んでいていいんだろうかといつも思っているんですけど。

ダース みんなが気を遣ってつまんない方向に行くよりは、楽しんでくれた方が気は楽です。僕も、全部我慢するのではなく、今日は少し緩めて、次の日は引き締める、みたいにうまくバランスを取っています。鹿島さんとの仕事は、メンタル的にもすごくいいし、楽しませてもらっています。

鹿島 これからも、色々一緒にやっていきたいので、僕との仕事がダースさんのプラスになれば、こんなにうれしいことはありません。最後に読者へのメッセージをお願いします。

ダース 「僕はこういう病気を持ってますけれど、こんなふうに生活してます」と言いながら活動できていることが、皆さんへのメッセージになればいいなと思います。

鹿島 ダースさんは、髪の色もあえて明るくして、明るい病人がいたっていいじゃないか、といつも言っていますよね。

ダース イメージとしては、75年の映画「ジョーズ」(CIC)で、主人公たちが、どこでサメに嚙まれたかという話をして、お互いに傷を見せ合うシーンがあるんですけど、そんな感じです。1人で抱えてつらいと思っていることを外に出して笑い話にしちゃうような。

鹿島 昇華するというか、すごく大事なことですね。

ダース 病気の会話が健全に行われることが、僕の提案する「イル・コミュニケーション」です。

『イル・コミュニケーション―余命5年のラッパーが病気を哲学する―』
(2200円=ライフサイエンス出版)

ゲスト/ダースレイダー:1977年、フランス・パリ生まれ。ロンドン育ち、東京大学中退。ミュージシャン、ラッパー。10年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明。以後、眼帯がトレードマークになる。バンド・ベーソンズのボーカル。オリジナル眼帯ブランドOGKを手がけ、自身のユーチューブチャンネルで宮台真司、神保哲生、プチ鹿島、町山智浩らを迎えたトーク番組を配信している。

聞き手/プチ・かしま:1970年、長野県生まれ。大阪芸術大学放送学科卒。「時事芸人」として各メデイアで活動中。新聞14紙を購読しての読み比べが趣味。19年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。21年より「朝日新聞デジタル」コメントプラスのコメンテーターを務める。「芸人式新聞の読み方」など著書多数。

「週刊アサヒ芸能」3月14日号掲載

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