山間部が国土の7割を占め、年間降雨量が多い日本は水資源が豊富。全国各地に湧き水スポットがあり、天然のミネラルウォーター目当てに週末などには空のペットボトルやポリタンクを抱えた人たちの姿をよく見かける。
なかでもJR木次線の「出雲坂根駅」(島根県奥出雲町)は、駅構内に名水が湧き出ることで知られる大変珍しい駅。地元島根の名水百選にも選ばれており、しかも〝延命水〟という大層な名前が付けられている。
もともとこの付近は昔、狸やキツネが多く棲んでおり、言い伝えによると寿命100年を越す古狸が愛飲していたのがこの湧き水だったとか。その噂を聞いた地元の人々が長寿の霊水として飲むようになったと言われている。
この延命水の泉源は出雲坂根駅だが、水汲み場は同駅をはじめ、駅前の国道を挟んだ向かい側、少し離れた直売所の駐車場など数ヶ所に設置。ちなみに駅は中国山地の山深い場所に位置し、近くには民家が数棟ある程度。鉄道は上下線3本ずつの1日6本しか停車しないため、列車で訪れた場合はこの短い停車時間のうちに水を汲まなければならない。
それでも3~5分の停車時間があるので間に合うが13時台到着の備後落合行きは現行ダイヤでは唯一、16分間と長めに停車。記念撮影や周辺を軽く散策する程度の余裕はあるのでオススメだ。
以前、実際に同駅を訪れて延命水を飲んだが、クセがなく、夏場でも冷たいのでノド越しもいい。また、地元名産のブランド舞茸の奥出雲舞茸はこの延命水を使って栽培されており、こちらもいいダシが出て非常に美味だ。
そんな出雲坂根駅には最近見かけなくなったスイッチバックがある。隣の三井野原駅とは標高差が162メートルもあり、急坂を一気に駆け上がるためのものだが斜面に沿ってアルファベッドのZの形に敷かれた線路を上る鉄道ファンには胸熱の人気のスポットだ。
この地域では国道も標高差を補うために「おろちループ」と呼ばれる珍しい螺旋状の橋が山と山の間に架かっており、車窓からの景色も見応え十分。名水だけでなく風景も堪能でき、ローカル線の魅力が存分に味わえるはずだ。
(高島昌俊)