ここまで出た大谷翔平の去就問題を整理してみると、今夏のトレード放出とフリーエージェントとなる今オフの自由交渉の二択だ。
後者は5億ドル規模(約644億円)の大争奪戦になるという。いずれにせよ、エンゼルス残留はないようだが、こうした米メディアの予想に真っ向から異議を唱える声が、日本球界内にはあるのだ。
「最後は、大谷の気持ち次第なんじゃないかな」
そんなふうに語る関係者も少なくなかった。とくに日本ハム時代を知るOBなどは「カネは二の次」と話していた。
大切なのは、人間関係だ。年収、待遇アップが保証される転職話あったとする。しかし、今の職場にはこれまでお世話になった義理と愛着がある。「年収と待遇」と「義理、愛着」を天秤にかけ、後者を選んだ場合、日本では美談だが、アメリカでは“バッドチョイス”となる。
エンゼルスを出るとなった場合、大谷の人柄と日本人的気質から、後ろ髪を引かれるような思いに駆られるのではないかというのだ。
ところが、こんな話もある。同僚のマイク・トラウトのWBC出場に関してだ。
「トラウトは近年、ケガに泣かされてきました。普通の選手なら、シーズンに集中したいところ。でも、米国代表チームの実質的なGM役を務めたのが、恩ある元エンゼルスGMのトニー・レギンス氏でした。WBC出場はレギンス氏からのお願いだったので、トラウトは絶対に出ると決めたんです」
アメリカ人も義理、人情を優先するときがあるようだ。その後、トラウトはWBC後遺症なのか、ケガでスタメンを外れる試合があるが、彼を責める声は一つも出ていない。
「2019年開幕直前、トラウトは2年契約の1年目でしたが、エンゼルス側が延長、年俸面での条件アップを提示し、『10年総額3億6000万ドル』の契約を結び直しました。看板選手が複数年契約の途中で新契約を結ぶのは、MLBではよくある話。トラウトと交渉して、大谷と交渉しないなんてあり得ないこと」(米国人ライター)
もっとも、そのシーズン途中での慰留交渉に失敗した場合、期限までの交換トレードで相手球団から期待の若手数人をもらうのもよくあることだが…。
ペナントレースは面白いもので、エース、主砲が好成績を収めても、優勝できないことのほうが多い。日本のプロ野球でも同じような例はいくつもある。万年下位のチームの主軸選手がFA権を行使して伝統球団に行くのは、そんな団体競技の難しさを痛感したからであって、今の大谷もそんな心境にあるのかもしれない。
恩返し、シーズン途中での契約更新。トラウトの存在が大谷の去就問題に影響を与えそうだ。
(了/スポーツライター・飯山満)