川柳はサラリーマンだけのものじゃない! 全国の刑務所から寄せられた「獄中川柳」を厳選公開。五七五に自虐や不平不満を込め、検閲を潜り抜けた名句を解説していこう。
「刑務所の中は理不尽だらけ。でも、舎房では誰も愚痴を聞いてくれないし、手紙で外部に発信しようものならカドが立つ。そんな不平不満の捌け口になるのが川柳。あくまで創作活動の一環ですから、思う存分に筆をふるえるのです」
こう話すのは作家の影野臣直氏。8月1日発売の新刊「刑務所川柳 獄中で泣くヤツ、笑うヤツ」(駒草出版)で、全国から寄せられた311句の選評を務めた。同氏推薦の優秀作を紹介していきたい。
〈ムショの中 年寄りだらけ 老人ホーム〉(男性・高知刑務所)
法務省の矯正統計調査によれば、20年末の時点で受刑者の総数は約4万人。そのうち65歳以上は5624人に及んでいた。
「工場での刑務作業もおぼつかず、使い物にならない受刑者は〝モタ工〟と呼ばれます。彼らは出所しても仕事にありつくのは難しい。結局、『食べるのに困らないから』という理由で、ムショに戻るために悪さを働く。円安不況や物価高もあって、そんな老人が増えていくかもしれませんね」(影野氏、以下同)
再入所を望む高齢者がいる一方で、出たくても出られない受刑者もいる。
「問題となっているのが無期懲役囚。無期刑の受刑者に仮釈放のチャンスが訪れるのは服役から31年後。しかし、最初の仮釈放審理で落ちると、次の審査は10年後。そこで落ちればまた10年後と、仮釈放のハードルが高くなっているのも、高齢化の一因でしょう」
法務省の発表によれば、20年末時点で無期懲役の受刑者数は1744人。同年に仮釈放が認められたのはわずか14人だった。
せめて健康寿命を延ばすためにも、口腔ケアに努めたいところだが‥‥。
〈歯科治療 呼ばれる頃は 痛み無し〉(男性・名古屋刑務所)
塀の中では歯科医の診察・治療がなかなか受けられないようで、
「診察願いを提出しても、診てもらえるのは早くて半年後。痛み止めの薬がもらえるくらいで、歯科医が来る頃には、虫歯そのものが抜けているのです。また、薬物中毒の後遺症で歯が溶けていくケースもあり、受刑者がどんどん歯ナシになっていくのです」
規則でがんじがらめの刑務所暮らしで、励みになるのが親族との面会だが、
〈アクリルに 跳ね返された 投げキッス〉(女性)
約20分という短い時間の中で、受刑者と面会人が絆を確認し合う。
「投げキッス程度でいちいち注意する刑務官はいないでしょう。アクリル越しに手を合わせるのもOKだったそうです。しかし、女性の面会人が、突然、下半身のインナーを見せた時は刑務官も黙っていませんでした」
アクリル越しの肌見せサービスは艶本の差し入れよりも有難かった!?
(イラスト/タカミトモトシ)