ライバル争いの決め手は心証、それとも数字か…。
敵地で迎えたオリオールズ戦に「1番・指名打者」で出場した大谷翔平選手がヒットを放ち、OPSでウラジミール・ゲレーロ・ジュニアを逆転したとの一報か飛び込んできた。今さらだが、ゲレーロとは、本塁打、打点、そして、ア・リーグMVPを争うライバル同士。大谷がOPSで1.001、ゲレーロが1.000というハイレベルな争いが続いており、
「近年のMVP争いは本塁打、打点、打率の打撃3部門よりも、OPS(出塁率+長打率)などの指標が重要視されます」(米国人ライター)
との傾向から“大谷有利”と思われたが、それだけではないようだ。
二刀流・大谷の驚異的な活躍を素直に称賛するのと同じくらい、ゲレーロ・ジュニアの「復活の物語」も強く語られるようになった。
「彼にとって、今季はプロ野球選手としての人生がかかっていたと言っても決して大袈裟ではありませんでした」(同前)
ゲレーロ・ジュニアの父親はMVP1回、シルバースラッガー賞に8回も選ばれた一流のメジャーリーガーだ。叔父、従兄も元メジャーリーガーという野球一家に育ち、自身も順風満帆な野球生活を送ってきた。
ところが、である。昨季のコロナ禍でペナントレース開幕戦が大幅に遅れ、その間の体調管理に失敗してしまったのだ。春季キャンプ中と比べ、体重が15㎏ほど増えてしまい、「こんな身体では守備につかせられない」として、定位置だった三塁から指名打者兼一塁手に転向させられた。
当然、打撃成績も大きく落とし、21歳なのに「もう終わった」と酷評された。
「シーズン終了後、失意のドン底でした。二世仲間やチームメイトが檄を飛ばし、立ち直らせたんです」(同前)
オフの間、猛練習とダイエットを続け、輝きを取り戻したのである。
大谷が「二刀流」というカリスマ的な活躍を続けるのに対し、ゲレーロ・ジュニアには「慢心、挫折、再起」のストーリーがあり、それに親近感を抱くファンも多いそうだ。
MVPは米野球記者たちの投票によって決まる。カリスマの大谷か、それとも親近感のゲレーロ・ジュニアか…。今年のMVP投票は数字では計り知れない要素が影響しそうだ。
(スポーツライター・飯山満)