富士の樹海や特殊清掃の現場など、潜入ルポを得意とするライター兼イラストレーターの村田らむ氏が訪ねたのは大阪・難波。ディープなオタク街と知られる「日本橋オタロード」にできた唯一無二の葬儀屋とは?
ここのところ、葬祭ビジネスの市場規模は縮小傾向にある。そもそも「葬儀にあまり金をかけたくない。家族だけの小さな葬式で十分だ」と思う人が増えていたのに加え、2020年からのコロナ禍ショックにより、一気に小規模化が進んだ。コロナ禍が収束しても元通りにはならないと予測する意見もある。
こんなに不景気でお金のない世の中だ。「死人にかける金なぞない!」と思うのも仕方がない。
「葬儀にお金をかけない」が当たり前になっている今、大阪は難波に新しい葬儀場「アマガラス」ができた。
場所は日本橋のでんでんタウン沿い。オタロードと呼ばれる場所で、東京の秋葉原と同じく、アニメショップ、ゲームショップ、メイド喫茶、コンカフェなどが所狭しと並んでいる。そんな街の中の雑居ビルの4階にアマガラスはある。
葬儀屋にはとても向かない環境な気がするが……。しかしアマガラスはまさにこの街のニーズに応えた葬儀屋なのだ。店長のB・カシワギさんは語る。
「アマガラスは、あなたの“推しのキャラ”のための葬儀屋なんです」
つまり、漫画のキャラなどの葬儀をする専門の葬儀屋なのだ。
半世紀以上前、爆発的な人気を誇った「あしたのジョー」の主人公・矢吹丈のライバル、力石徹が試合後に死んだ後、寺山修司の発案により講談社の講堂で葬儀が行われた。その他にも「タッチ」の上杉和也、「銀河英雄伝説」のヤン・ウェンリー、「北斗の拳」のラオウなどの葬儀が行われている。
日本人にとって、非実在青少年の死を悼み、葬儀をあげることは、不思議なことではないのだ。ただもちろん葬儀があげられたのは、名だたる人気キャラだけだ。
ひっそりと死んでいった自分の推しも弔ってあげたい。そんな推しキャラの葬儀を自分が喪主になって開くことができるのがアマガラスだ。
「僕はなんばにトークライブハウスやバーを複数経営しているんです。コロナ禍では、正直、給付金で現金がたくさん入ってきました。ただ、そのお金を溜め込んでおくのって気持ち悪かったんですね。だからクリエイティブな方向に使いたかった」
カシワギさんの知人のコスプレイヤーが喪服を着たいけどなかなかよいスタジオが見つからないと愚痴っていた。
「ノリで『祭壇を作るか!!』っていう話になりました」
会場内は天井も壁も黒く塗られたシックな空間。その中に厳かな雰囲気漂う、大きい祭壇が置かれている。ぱっと見ただけでも、とても作りが細かく、質の高い物だというのが分かる。
「これは京都の宮大工が作った祭壇です。20年くらい前に作られた物で、250万円くらいかけて作られているようです」
そんな伝統ある祭壇をどのようにして手に入れたのだろうか?
「京都の自治体から、メルカリを通して買いました。今はメモリアルセンターで葬儀を執り行う人が多く、自治体の祭壇を利用する人が減っているんです。年に1〜2回しか使わないなら、管理費もかかるから売りに出そうと。そんな事情で出品されている祭壇を買いました。正直、買った値段より、運送費にお金がかかりました」
たしかにこんな立派な祭壇があれば、自分の推しを立派に送ることができるだろう。昨今の人気漫画「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「チェンソーマン」「HUNTER×HUNTER」「進撃の巨人」「東京卍リベンジャーズ」など、人気キャラが次々と死んでいくような作品が多い。漫画アニメキャラの葬儀なら需要もありそうだし、多少不謹慎なことがあっても炎上したりするリスクは低そうだ。
自分の推しがなくなって「寂しい!!」と思っている人はぜひアマガラスでDIYな葬儀を開いてみてはいかがだろうか?
(村田らむ)