実は、コンビニよりも数が多いと言われているお寺。その中には「なぜ、こんなところに?」と首をかしげたくなるような山奥に建てられているものも珍しくない。鳥取県中部の三朝(みささ)町にある三佛寺投入堂もそのひとつ。特に寺社巡りの好きな人の間では〝日本一危険〟と謳われるほど有名だ。
山陰有数の名湯、三朝温泉から車で10分ほどの場所にある三佛寺は、三徳山にある山寺。本堂は麓にあるが、問題の投入堂はそこから山道を30~40分登った場所。ただし、ここに向かう道は整備されているわけではなく、ほとんど獣道と大差ない。
もともとこの山は8世紀に修験道の行場として開かれたと伝えられ、奥院にあたる投入堂が建立されたのは平安時代後期。断崖絶壁の窪みに置かれた柱の上に絶妙なバランスで支えられており、なぜこのような不安定極まりない場所に建てたのかは今も謎だ。
現在は近くから眺めるだけだが、ここまで行くだけでも大変。あまりに道が険しすぎて、この20年の間に少なくとも5名が滑落などで亡くなっている。そのため、今は単独での参拝は禁止。1人で訪れた人は他の人と同行する形でないと入山が認められない。
また、入口では靴底のチェックもあり、滑りやすい靴だと入山はNG。でも、仮に山に入ることができても途中には10メートル近い崖を鎖を掴んでよじ登らなければならない難所もあり、そこで断念して引き返す者もいるほど。
そこを超えても中間地点に位置する文殊堂は、周囲の山々が一望できる休憩スペース。絶景スポットながらも崖の上に建てられている。そのため、お堂の外周の廊下から足を踏み外せば命の保証はない。本堂までならともかく、投入堂は観光気分で登れるような場所ではない。ある程度の装備は必要だろう。
それでも何時間も登るわけではないため、体力の消耗はそこまでひどくはないはず。細心の注意こそ必要だが国宝の中では最も訪れるのが大変な場所にあり、苦労してでも一見の価値はある。機会があれば一度参拝してみるといいだろう。
(高島昌俊)