3月下旬、オーストラリア南東部のニューサウスウェールズ州で、大規模洪水が発生。付近の住民約1万8000人が避難を余儀なくされたが、その影響で地域に生息するクモが水から逃れるため大量に出現。クモが民家の塀などを覆い尽くす映像が豪ABCなどで配信され、世界に衝撃が走った。昆虫の生態に詳しい科学ライターが語る。
「民家の壁にクモがびっしり張り付いている、なんて映像だけでも、ゾッとしますが、実はこのクモは、シドニー近郊に生息する『シドニージョウゴグモ』という殺人グモなんです。その毒性は毒グモのなかでも屈指で、体長3~5センチと身体は大きくないのですが、性格も攻撃的。噛まれると嘔吐や腹痛が起き、重症になると筋肉のけいれんや呼吸困難などの症状が現れ、最悪の場合は死に至ります。このクモに噛まれ、シドニーだけでも過去13名もの死者が出ています。つまり、そんな殺人グモが民家に大量発生したというわけですからね、4月に入っても、州をあげて駆除活動に大わらわだと聞いています」
地域で暮らす住民は、まさに生きた心地がしないだろうが、実は強力な毒性を持った殺人グモは、驚くことに日本にも生息しているという。前出のライターが語る。
「日本国内で確認されているクモは約1200種類。ほとんどのクモが毒を持っていますが、大半は昆虫や小動物が捕食出来る程度の毒性で、人間に影響を与えるほどではありません。ただ、海外から入ってきた外来種の中には神経毒を持った危険な毒グモがいて、その代表が『セアカゴケグモ』と『クロゴケグモ』の2種類。前者は元々オーストラリアに自然分布していた毒グモで、1995年に大阪府高石市で発見され徐々に分布が広がり、2018年8月時点では44都道府県で確認されていることから、日本のいたるところに潜んでいると考えていい。強い神経毒を持ち、噛まれると、末端の痙攣や呼吸困難といった症状が起こり、日本での死亡例はないものの、海外では死者も確認されている危険な毒グモなんです」
さらに、クロゴケグモはもっと恐ろしい。このクモは2018年時点で、東京都、山口県、滋賀県でのみ生息が確認されているが、別名「Black Widow(黒い未亡人)」と呼ばれ、その毒性は、なんとガラガラヘビの10〜15倍だといわれる。
「クロゴケグモは雨水溝や公園のベンチの下、フェンスなどに生息し、手の上に乗せたくらいでは咬みつくことはありませんが、腹部をつまんだりすると、危害を加えられたと感じ、攻撃してくるという調査結果もあります。このクモに噛まれた場合も、セアカゴケグモと同症状が始まり、呼吸困難に陥り、最悪死に至ることもあります」(同ライター)
どちらの毒グモも3月〜8月が活動期で、特に6月に発生率が高くなるといわれる。
「毒グモとはいえ、基本クモは大人しい昆虫なので、こちらが巣を破ってしまったり、ちょっかいを出したりしなければ襲ってくることはありません。ただし、雌の場合、産卵前後で気が立っているときは、こちらが無防備でも攻撃を仕掛けてくることもあるので、とにかく、毒グモらしきものを見つけたら、近づかずに放っておくこと。成人が噛まれて軽傷で済んだとしても、それが子供や高齢者だった場合は、危険度が増すことは必至です。これからの時期、各地で毒グモの発生件数も増えるはずですからね。油断はしないことです」
なにはともあれ、君子危うきに近寄らず、ということだ。
(灯倫太郎)
*写真はクロゴケグモ