「寝てもダメならアリナミン」のCMでお馴染みのアリナミンが武田薬品工業(以下、武田)のもとを離れ、外資系ファンドの持ち物になる。
そんな発表が行われたのが8月24日のこと。武田は子会社の武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)をアメリカの投資ファンドのブラックストーン・グループに2400億円で売却するとしたのだ。
TCHCがアリナミンの他に手掛けるのは、ベンザブロック、タケダ漢方胃腸薬、ハイシー、ボラギノール、マイティアCLなど、いずれもテレビCMなどで日本人にはお馴染みの製品ばかり。TCHCが行う事業はもともとは武田本体が手掛けていたが、2017年に分離、今回の売却でTCHC製品は資本的には「国民薬」ではなくなることになる。特にアリナミンは、いまだ戦禍を引きずる1950年代に日本人の栄養状態が良好ではなく、「脚気」が「国民病」だった時代の54年に脚気予防になるビタミン剤として売り出されて以来、武田を代表する製品ブランドとなっていた。だから古くからの武田関係者の間ではアリナミンへの思い入れは一際強いものがあるという。
それを売ってしまうというのだが、その売却理由は、「中核事業以外への投資には手が回らない」というもの。今や医療医薬品を本業とする武田では、大衆薬は不要とのことらしい。一方、関係者の間では、
「武田が2019年に行った、アイルランドの製薬会社のシャイアーを6兆円もの巨額で買収した際に発生した借入金負担が重くなったからでは」というのが大方の見方。だが会社はこれ(負債圧縮)は否定。あくまで現在の非中核事業である「家庭薬」事業を切り離したと説明されている。
ところがさらにもう一つ裏ではこんな見方も。
「TCHCは4月以降ずっと売りに出ていて、一時は大正製薬が手を上げると見られていたんですがそれもならず、当初は4000億円で売りに出ていたのが2400億円の安値で収まったというのが今回の売却劇ではないでしょうか。実は武田では今年に入り、中核事業である抗がん剤の製造工場(山口県光市)にアメリカのFDA(食品医薬品局)から設備の不備を指摘されて生産ラインがストップしていたんです」(経済誌記者)
つまり、世界中で売れて年1000億円の売り上げのドル箱収入が失われていた状態だったというのだから、そうとう焦っていたのかもしれないのだという。
「武田は株主に良い顔をしたくて業績以上の配当を支払う一方、社員のリストラや大阪本社を手放すなど、身を切る経営も近年行われていました」(前出・経済誌記者)
武田は大衆薬路線から身を引いて医療医薬品メーカーに舵を切ることで世界のメガファーマ10傑に名を連ねる世界的企業にはなったが、その一方で失われたものも多いようだ。
(猫間滋)
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