熊本豪雨がもたらした「くま川鉄道」への甚大被害、復旧までの遠い道のり

 7月3日未明から始まった大雨の影響で、熊本を中心に九州各地で被害が出ている。そのなかで、現地の鉄道も甚大な被害を受けており、7月7日までに鉄道橋が3本も流失してしまった。

 流失したのはJR九州の肥薩線が走る球磨川第1橋梁と第二球磨川橋梁。さらにくま川鉄道が走る球磨川第四橋梁。どれも橋脚や橋桁まで流される大きな被害を受けた。

 線路が流失するなどの被害を受けた場合、鉄道が復旧するには時間がかかるが、橋が流失した場合は特に時間がかかるという。

「まず橋脚から作り直さないといけません。これはとても時間のかかる作業です。ただ、もっと時間がかかるのが橋桁作りです。鉄道橋の橋桁は鉄製で、橋の全長や幅、通過する列車の重さにあわせて専用の桁を作るんです。完全なオーダーメイドですね。そのため、とにかく時間がかかる。また、橋桁を作れる工場は決して多くなく、ふだん別の鉄製品を作っているため、注文したからといってすぐ作れるものでもない。肥薩線とくま川鉄道が全線復旧するのはかなり先になるでしょう」(鉄道ライター)

 1982年、台風10号がもたらした豪雨で静岡県の富士川にかかる「富士川橋梁」が流失。この時は工事が始まってから復旧するまで75日を要した。

「富士川橋梁を通っているのは、日本の大動脈である東海道線です。残った上り線を使って単線で運行しましたがとても足りず、1日も早い復旧が求められました。そのため急ピッチで工事が進められたんです。それでも75日かかった。余談ですが富士川橋梁の時は桁を新造するのではなく、廃線の桁を補修して流用する案もありましたが、強度の面から断念しています。九州の橋にぴったり合う橋桁があれば、それを流用することで、早く復旧できるかもしれません」(前出・鉄道ライター)

 ちなみに新潟と福島を走る「只見線」は2011年7月の豪雨によって只見川にかかる只見川橋梁が流失。今も会津川口と只見の間は不通になっている。

「このケースは少し特殊で、橋梁の製造に時間がかかっているわけではありません。復旧にかかる費用をJR東日本は85億円と試算したのですが、JR東日本と福島県、新潟県、沿線の市町村がそれぞれどれぐらい負担するかでなかなか合意に至らなかったからです。幸いにも17年に合意され、18年から復旧工事が始まっています。全線開通は21年度を予定していますから、やはり時間がかかりますね」(前出・鉄道ライター)

 肥薩線は観光列車「いさぶろうしんぺい」「かわせみ やませみ」が走り、人気の路線。くま川鉄道も観光列車「田園シンフォニー」が運行され、多くの観光客が訪れる。一刻も早く復旧してほしいものだ。

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