結局は中国人の爆買い頼み?ルイ・ヴィトン「ティファニー買収話」の裏事情

 10月26日、ルイ・ヴィトンやディオールなどのハイブランドを傘下に持つフランスのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)が、ティファニーに買収話を持ち掛けていると、米・ブルームバーグなど複数の海外メディアが報じるニュースが世界中を駆け巡った。

 買収額は145億ドルで日本円に換算すると約1兆5700億円にも及ぶ。ちなみに10月25日時点でのティファニーの時価総額は約1兆2500億円だ。LVMHが提案を持ち掛けたのは10月初旬で、ティファニー側は提案内容を精査中という。最終的に受け入れない可能性もあるとも報じられている。

「LVMHの狙いとしては、アジアに次ぐ世界第2位のマーケットのアメリカ市場の拡大と言われています。ファッション部門と違って宝石部門がふるわないLVMHとしては、米国ブランドのティファニーを買収すれば、大きな足掛かりが得られると同時に、弱点の強化につながるというわけです」(経済部記者)

 今回のハイブランドの“求婚話”が成立すれば、セリーヌ、ジバンシー、ブルガリ、化粧品のクリスチャン・ディオール、時計のウブロ、シャンパンのドン・ペリニオン、そこにティファニーが加わり……と、まさに華やかな夢のブランド勢力だが、現実は常にもっと単純なもの。背後に横たわるのはやはりチャイナ・リスクだ。

 ティファニーの2019年第2四半期(5〜7月)決算は、売上高、純利益ともに前年同期比でマイナスだったが、これは18年が好調だったからで、結果は市場予想を上回るものだった。理由は中国本土での販売好調だ。

「逆に言えば、不安定な中国市場に支えられているのが現状とも言えます。現に、ティファニーにとって香港は米国、日本、中国本土に次いで、世界全体の売上高の6%を占める4番目に大きな市場ですが、長引くデモで年間売上高が見通しに達しない可能性を示唆しています」(同前)

 要は、“爆買い”に大きく依存しているのが現実というわけだ。だからこそ、LVHMはチャイナ・リスクを回避するために米国強化を謳うのだが、一皮むけば米国市場でも事情はそう変わらない。

「米中貿易摩擦で両国関係が悪化する中、昨年、アメリカを訪れる中国人が15年ぶりに減少し、マイナス影響はブランド各社の売り上げに及んでいます。米商務省によると、国別の訪米者数では中国はカナダやメキシコ、日本などに次ぐ5位だが、訪米した際の消費額では364億ドル(約3兆9000億円)で、2位のカナダの221億ドルを抑えて堂々の1位だからです。現に、ティファニーの今年の2〜4月の訪米客向け売り上げは約25%も減っている。要は、アメリカ国内の贅沢消費も爆買いに支えられていたというわけです」(同前)

「世界市場、特にハイブランドの世界では、13億7000万人の中国の人口の半数を占めるミレニアル世代とZ世代を抜きにしては語れません。特に、2億5000万人ほどいるとされているZ世代は、物心ついた時から贅沢消費に慣れていますから」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 LVMHが描く世界戦略にティファニーは応えるのか。それとも孤高を守りいばらの道を行くのか。
 
 (猫間滋)

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