工事現場の倒壊で東横線324本運休、建設会社に億単位の損害賠償を請求できる?

 テレワークの増加で、朝夕の通勤ラッシュがいくぶん緩和されたとされる昨今。とはいえ、いざ車両故障や人身事故などでの運休(運転見合わせ)や遅延が発生すれば、車内で足止めを食らった乗客は無論のこと、駅構内に人があふれて“密”を生むなど、大迷惑を被るのは言うまでもない。

 春の嵐が吹き荒れた3月2日夜。東京・目黒区の東急東横線線路沿いにある工事現場の足場が崩落。その影響で同線は渋谷駅と武蔵小杉駅間の上下線で、翌日の始発から運転を見合わせる、という事態に発展してしまった。全国紙社会部記者が語る。

「思いのほか復旧作業が難航し、ようやく上下線が復旧したのが3日の午後ですからね、東急電鉄によると、2日と3日の両日で計324本が運休し、計約17万3800人に影響したとのことです」

 騒動を受け、SNS上には《全く迷惑な話!強風に対する読みが甘すぎる!》《強風の影響も有るだろうけど、足場組み込みのスキルも有るんじゃないかな!》《こりゃ、建設会社に東急から億単位の損害賠償請求が…》といった声が続々。

 たしかに、線路への立ち入りや自死などの人身事故で、列車に運休や遅延などを生じさせた場合、鉄道会社から高額の損害賠償が請求されるといった噂を耳にすることがあるが、

「鉄道事業法が定める分類のうち、列車の脱線や踏切事故といった鉄道運転事故以外の原因で、運休または30分以上の遅延が発生したものを『輸送障害』といいます。輸送障害による賠償金額は、鉄道会社が時間ごとの人件費・他事業者への振替輸送費、また、車両が損傷した場合にはその修理費などを計算して決定されます。そのため、朝など利用客の多い時間帯で起きた場合には、その額もふくらんでいくことになります」(鉄道ジャーナリスト)

 この輸送障害の原因としては、今回のようなケースをはじめ「自死」や「線路内立ち入り」あるいは「置石」による妨害なども含まれるが、2日間にわたった今回のトラブルで、損害賠償額はどれだけの額になるのか。

「ひとつの目安になるのは2007年に愛知県で起きた鉄道事故。認知症の高齢者が列車にはねられて亡くなったのですが、この際、東海道本線の上下線で20本に影響し、約2時間の遅れが発生しました。鉄道会社は遺族に対して、約720万円を求める裁判を起こし、一審ではそれを認める判決がくだされています(のちに最高裁で賠償責任なしの逆転判決)。一概に比較はできませんが、今回の東横線の事故では300本以上が運休しているので、事故に対応した職員の人件費や振り替え運賃、払戻金などを含めると、1億円はくだらないのでは…」(前出・ジャーナリスト)

 ところが、こうした損害賠償請求事件のニュースが報じられることは滅多にない。

「鉄道事業者というのは公共交通機関であり、そんな会社が個人に対して億単位の損害賠償請求を行ない、裁判で損害賠償命令の判決が出たとしても、企業のイメージが悪くなる。そのため、一般的には数百万程度で示談になる可能性が高いんです」(前出・ジャーナリスト)

 ところが、今回の東急の場合は、相手が事業者ということで保険等に加入している可能性は大きいため、場合によっては高額の賠償金を請求する可能性もあるというのだ。

「強風が吹くことは予想されていたわけですから、それがわかっていてきちんとした対策がとられていなければ、建設業者側の過失が問われることになりますからね。いずれにせよ、この件に関する協議は長引くのではないでしょうか」(前出・ジャーナリスト)

 春の嵐が巻き起こした大騒動。はたして、どんな結末を迎えるのか……。

(灯倫太郎)

※写真はイメージです

ライフ