金融庁を騙って150万円を詐取!特殊詐欺の“受け子”が手にした驚きの報酬

 あの手この手で高齢者から多額の現金をだまし取る特殊詐欺が全国で相次いでいる。つい先日には大阪で80代の高齢者女性が6000万円以上の被害にあった事件が報じられたばかり。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が法廷で見た“実行犯”の行状とは?

 マスコミが「オレオレ詐欺」との呼称を用いてかれこれ20年くらい経つでしょうか。手口が多種多様になってきたので警視庁が「振り込め詐欺」という名前に統一したのが2004年末です。そこから16年以上の時が流れているので、高齢者を狙った詐欺グループが今時「オレオレ」と電話で言うことはないし、ATMで振り込ませることもしていません。時代とともに犯罪手口も進化しているので分類通り「特殊詐欺」と呼ぶのがいいかもしれませんね。

 というわけで、2〜3年前から急激に増えているパターンの特殊詐欺の裁判が東京地裁で行われました。もし知らない人がいたら1人でも多くの若者に教えてあげて下さい!高齢者じゃなく若者にですよ!

 罪名は窃盗。被告人は飲食店で働く20代の男性。

 起訴されたのは2件。2019年5月に共犯者が被害男性(70代)に電話をかけ、「警察ですが、あなたのキャッシュカードから不正にお金が引き出されています。今すぐ封印の手続きが必要です。金融庁の職員が自宅に伺うのでキャッシュカードとその暗証番号を書いた紙を封筒に入れて用意して下さい」と伝え、金融庁の職員を装った被告人が被害男性宅を訪れキャッシュカード2枚を盗んだ件がひとつ。

 もう1件は、その40分後に被告人が被害男性のキャッシュカードでATMから150万円を引き出したというもの。

 検察官の冒頭陳述によると、犯行当時の被告人は専門学校生。学校の友達と遊ぶ金が欲しくてTwitterで高額バイトの募集に連絡したという。すると向こうから、ここからの連絡は「テレグラムを使うように」とアプリを指定されたとのこと。

 テレグラムを介した連絡で、身分証の写真を送るように言われ、写真を送ると仕事内容はキャッシュカードの受け子と出し子で報酬は8〜10万円と伝えられたという。被告人は指示された通り、ネットプリントで印刷して金融庁の名札を作り、封筒にすり替え用のポイントカードを2枚入れ、スーツ姿で被害男性宅へ。すると被害男性がキャッシュカード2枚を入れた封筒を持っていたので、目を離したスキに用意した封筒とすり替えたとのこと。そのキャッシュカードを使ってATMで現金を引き出したというのが事件の流れです。

 最近の主流であるキャッシュカードのすり替えです。印鑑を取りに行かせてるうちに奪ったり、様々な方法があるらしいですけどね。

 ちなみにテレグラムはもともと株取引のために作られたコミュニケーションアプリで、一定時間が経つとメッセージが消えるのでこういった犯罪組織の連絡用に重宝されてるみたいです。

 被告人は母親にお金を借り、被害男性に37万円の弁償をしていて、被害男性も厳罰は望んでいないそうです。一部しかお金が戻ってきてないのに優しい被害者だこと。

 そして被告人質問。ここで衝撃的な事実が明らかになりました。

弁護人「犯罪してでもお金稼ごうと思ってたんですか?」

被告人「それはありません」

弁護人「いつ犯罪だと気づきました?」

被告人「テレグラムで連絡取って、身分証の写真を送った後に『受け子と出し子』と言われて。その時です」

弁護人「断らなかったのは何故ですか?」

被告人「お金欲しいって気持ちが強かったのもありますが、住所を知られてるんで断ったら何かされるんじゃないか、住所をどこかに晒されるんじゃないかと怖くなって…」

 恐怖支配とでも言いましょうか。身分証を見られてるから逃げられないと考えたようです。そして、是非とも知って欲しいのは以下のやり取り。

弁護人「報酬はいくら貰いました?」

被告人「1万円です」

弁護人「8〜10万円貰える話だったんじゃなかったの?」

被告人「150万円を引き出した後、テレグラムで指示された場所に行くと男がいて、タクシー代1万円と報酬の8万円を引いた141万円を男に渡すと『計算が合わない』と言われて。それで被害男性の家に行く時に乗ったタクシー代1万円だけ渡されました」

 詐欺グループは約束なんか守ってくれないんですよ!被害男性と会ってキャッシュカード奪って、さらにATMで防犯カメラに撮影されながら金を下ろして、最も逮捕されるリスクがある立場なのにタクシー代しか貰えないのが現状。ルールを犯してまでやった報酬が1万円って…。

 犯罪なんだからそもそもやるなよ、というのは当たり前の話。そうじゃなくて、詐欺グループに都合良くコキ使われて終わりってケースもあるからやるべきじゃないですよって話。悪人の手助けして、さらに被害男性に弁償までしてるんですよ、被告人は。割りに合わないどころの話じゃないですよ。

「特殊詐欺に気をつけよう!」というキャッチコピーは高齢者だけじゃなく、若者向けのメッセージでもあるんです。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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